「持込規制は法律違反」という指摘は本当か?
一般的な結婚式サービスは、ホテル・式場が新郎新婦からその業務を受託した後に、司会、装花、撮影等を担当するパートナーを手配し、新郎新婦にサービスを提供するという形が取られています。
一方でパートナーを新郎新婦が自ら手配して結婚式に従事させることを業界用語で「持込」と言いますが、多くのホテル・式場ではこの「持込」を禁止、または追加料金(持込料)を設定してこれを規制しています。
ホテル・式場側がこうした「持込」規制を導入する背景には「結婚式を円滑に進行したい」「提携先からの仕入れ掛け率を前提にサービス料金を設定している」などの事情があるわけですが、「持込」が認められないパートナーや一部の新郎新婦からは少なからず不満の声もあり、最近では規制そのものが「独占禁止法(独禁法)や消費者契約法に違反しているのではないか?」という指摘まで耳にするようになってきました。
では、ホテル・式場が「持込」規制を導入すること違法なのでしょうか?
今回のコラムでは、対パートナー、対新郎新婦と区分して解説します。
まず、対パートナーとの関係においては「独禁法違反だ」との指摘が一部にあります。
独禁法は、事業者間の競争を促進すること等を目的とした法律で、例えば、非常にシェアの高い業者が他の業者を不当に排除しようとしたり(私的独占)、いわゆるカルテルを結んだりすること(不当な取引制限)が規制されています。
そして「持込」規制に対しては、独禁法の禁じる「不当な取引拒絶」に該当しないか、つまり、ホテル・式場が一部のパートナーとだけ提携することで他のパートナーとの取引を「不当に」拒絶しているのではないか、という指摘がされているようです。
しかし、どこのパートナーと取引をするかは、原則としてホテル・式場の自由です。
たとえばあるホテル内のレストランが「使用する野菜は無農薬にこだわるこの農家で生産されたものに限定する」と掲げて営業していたとしても、それはそのホテルの営業方針であって、他の農家を「不当に」排除したものとは普通は考えられませんよね。
それと同じで、たとえばホテル・式場が正当な理由なく特定の事業者を業界から排除しようとするような「不当な」目的があるような例外的な場合を除いて、任意に「このパートナーさんが信用できるから提携しよう」と特定のパートナーを選び、提携することは、独禁法が禁じる他の事業者への「不当な取引拒絶」とはならないと考えます。
次に、新郎新婦との関係では「消費者契約法違反だ」との声があります。 消費者契約法は、新郎新婦などの消費者と事業者間の取引で消費者の利益を保護すること等と目的とした法律で、消費者の権利を制限し、消費者の利益を一方的に害する規定は無効とされています。
しかし、そもそも「持込」の可否はあくまで契約上の設定によるもので、法律上「持込」自体が消費者の権利として認められているわけではありませんし、「持込」規制をすることについては「式のスムーズな進行」等の一定の合理性を有する側面も認められるため、規制そのものが直ちに新郎新婦の利益を一方的に害するものとはいえないでしょう。
以上より、「持込規制は法律違反」という昨今聞かれる一部の指摘は、法的には充分な裏付けのあるものではないと私は考えます。
ただ一方で、「持込」規制の存在がトラブルになりがちなのは事実であって、ホテル・式場が規制をかけるのであれば、契約前にその内容をしっかり説明しておくこと、また規制を導入している理由を質問された際にはきちんと説明できる準備をしておくことが望まれます。
「持込」を規制する、しないに関わらず、新郎新婦に気持ちよく結婚式当日を迎えてもらえるといいですね。
以上