「消費者契約法」に続いて、昨今「持込」規制について法律上問題点を指摘されているのが、『「独占禁止法」に抵触するのではないか』という観点です。
前提として整理しておくと、「消費者契約法」とは事業者と消費者との間での契約、つまり会場と新郎新婦との間で締結される結婚式契約について適用される法律であるのに対して、「独占禁止法」は主に事業者間の取引、つまり会場と提携パートナー等との間で締結される契約について適用される法律です。したがって、対新郎新婦の関係においては直接的には「独占禁止法」は関係してこないのですが、「持込」規制についての理解を深める意味から、また新郎新婦に対して正確な情報を説明する目的から、ここで整理しておこうと思います。
独占禁止法とは、事業者間の競争を促進すること等を目的とした法律で、例えば、非常にシェアの高い業者が他の業者を不当に排除しようとしたり(私的独占)、いわゆるカルテルを結んだりすること(不当な取引制限)が規制されています。
そして「持込」規制に対しては、独占禁止法の禁じる「不当な取引拒絶」に該当しないか、つまり、会場が一部の提携パートナーまたは外部提携パートナーとだけ提携することで持ち込み事業者をはじめとした他のパートナーとの取引を「不当に」拒絶しているのではないか、という指摘がされているようです。
この点、「不当な取引拒絶」とは、
① 「不当に」
② 「ある事業者に対し」
③ 「取引を拒絶」すること
とされており、もし業界内で一般的な「持込」規制がこれらの要件を満たす場合には、独占禁止法に違反する規制となる可能性が出てきます。
しかし、まず、大前提として、会場がどの事業者と取引をするか、またどのような内容の取引をするかは「営業の自由」の範疇に属します。つまり、法律上、原則として会場は提携する事業者を自由に選択することができます。
その上で、会場がそれを理由に「持込」を申し出た特定の取引先との取引を拒絶することが、上記①の「不当に」の要件を満たす場合には、「不当な取引拒絶」に該当し、独占禁止法に抵触する可能性が出てきます。
では、①の「不当に」と言えるのはどういうケースでしょうか。この点、端的にいえば「公正な競争を阻害する」ものであるか否かが問題となり、「公正な競争を阻害する」場合としては、
・ 市場における有力な事業者が
・ 競争者を市場から排除するなどの独占禁止法上不当な目的を達成するための手段として取引拒絶を行い、
・ これによって取引を拒絶される事業者の通常の事業活動が困難となるおそれある場合
がこれに当たるとされています(金井貴嗣ら編「独占禁止法 第3版」271頁)。
しかし、ある会場が「持込」規制を理由に、持ち込み事業者との取引を拒絶したとしても、その会場が「市場における有力な事業者」で、かつ、「競争者を市場から排除するなど」の悪意をもってすることは現実的には考えにくく、独占禁止法上の「不当な取引拒絶」に該当するケースはブライダル業界においてはほぼ皆無と言ってよいでしょう。
ちょっと難しい解説が続きましたが、シンプルにこう考えてみてはいかがでしょうか。
たとえばあるホテル内のレストランが「わがレストランで使用する野菜は、無農薬にこだわる『この農家』で生産されたものに限定する」と掲げて営業していたとしても、それはそのホテルの営業方針であって、他の農家を「不当に」排除したものとは普通は考えられませんよね。
それと同じで、たとえばブライダル市場に絶大な影響力を持つある会場が、正当な理由なく、特定の事業者をブライダル業界から排除しようとするような「不当な」目的があるような例外的な場合を除いて、任意に「このパートナーさんは信用できるし、品質も良いから提携していこう」と特定のパートナーを選び、提携することは、独占禁止法が禁じる他の事業者への「不当な取引拒絶」とはならないと考えます。
第4回と今回と検討してきたように、「持込」規制そのものが、直ちに何らかの法律に抵触するという関係は見いだせません。少なくとも、明白な法律違反というような面はないと断言しても差し支えはないでしょう。
それでは、昨今問題になってきている「持込」規制を巡る問題の本質はなんでしょうか?
おそらくそれは、法律論ではなく、①「持込」規制に合理性があるのか否か、そして②「持込」規制の存在を契約前に正しく新郎新婦に説明しているのか否か、の2点に集約されるものだと考えられます。
次回以降は、その点について掘り下げていきましょう。
第5回 おわり