BRIGHTへのお問合せやご質問を多くいただいた、グローバルダイニング社(GD)の訴訟から読み解く「教訓」をQ&A形式でご紹介します。
Q 世間的にも注目されたGDが提起した訴訟ですが、どのような内容だったのでしょうか?
A 2021年に東京都が、特措法に基づく営業時間短縮の要請に従わなかった一部店舗の運営事業者に対して、要請に従うよう「命令」を発しました。そのうちの1社であるGDが、「違法な命令により損害を受けた」として、東京都に対して賠償を求めていたものです。
Q どのような判決だったのですか?
A 実際には様々な争点がありましたが、2点にまとめると、
(1) 東京都がGDに対して出した「営業時間短縮命令」は違法であった。
(2) ただ命令を出したことに都知事の過失があるとは認められないので、GDからの損害賠償請求は認めない。
というものです。
Q 「命令は違法」と認めているのに「賠償請求は認めない」っていうのがよくわかりません。
A まず「命令は違法」という判断を解説します。
特措法第45条第3項には、都道府県知事が事業者に「命令」するためには、
(1) 事業者が正当な理由がないのに要請に応じないこと
(2) 特に必要があると認められること
の2つを満たすことが必要だと書かれています。
東京地裁は、「店舗内で感染予防対策が講じられていた」「数日後の宣言解除がすでに決まっていた」等を踏まえると、「特に必要がある」とは言えず(2)の要件を満たしていないので、GDに対する命令は違法であった、と判断しました。
Q なるほど。命令までする明確な必要性がなかったということですね。
A はい。この判断の前提には、日本国憲法で認められた「営業の自由」という考え方があって、本来、国や地方自治体などの行政機関は、正当な理由がないのに飲食店等に対して「営業をやめろ」「営業時間を短縮しろ」などと命じることはできないのです。その原則に対する例外を認めるほどの明確な必要性は認められない、と東京地裁は判断しました。
Q ではなぜ都に賠償請求は認めなかったのでしょうか?
A ここで出てくるのが「過失責任主義」という法律の考え方です。これは、いくら相手に損害を与えたとしても、損害を与えた側に故意や過失などの落ち度がなければ賠償責任は負わない、という法律的な考え方における基本原則です。
本件において東京地裁は、命令自体は違法としながらも、命令を出した時点では「専門家が一様に命令が必要と認めていた」「特措法に基づく命令が初で前例がなかった」ことなどから、都知事に過失はなかったと判断し、賠償責任までは認めないという判断をしました。
個人的にはこの部分の判断は納得しかねるのですが、あくまで「当時は仕方なかった」ということなので、今後もしまた命令が出されるような事態になれば別の判断はあり得るように思います。
Q ブライダル業界にとっての「教訓」はなんでしょう?
A まず、現時点ではあくまで地方裁判所の判決ですので、まだ司法としての最終的な判断が示されたわけではないことに注意が必要です。 また、今回の判決を受けて「納得いかない命令等には従わないでよい」と考えるのは早計です。後から「違法」と認定される今回のようなケースは極めて稀であって、「従わない」という選択肢にはかなりのリスクが伴います。
ただ、行政側としては、今後もしまたコロナが拡大した際に、特措法に基づく要請や命令を出すときに「より慎重に」その是非を検討しようという意識は少なからず生じるようには思います。
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