TOPICS
(1) 『結婚式の日程にあわせて巨大台風が到来した場合の法律関係』を巡る法律関係Q&A
台風10号がこの週末に日本列島を縦断する見込みの中、改めて「結婚式と巨大台風」を巡る法的な考え方を9つのQ&A形式でまとめました。是非ご参考になさってください。
Q1.気象庁より「特別警報」が発表された中で結婚式を挙行することは問題ないのでしょうか?
A1.「特別警報」が発表されたからといって直ちに結婚式を挙行することが禁じられる訳ではありませんが、新郎新婦、参列者またスタッフの安全を配慮した検討が必要となります。
このメルマガを執筆している時点において、気象庁は鹿児島県に「暴風波浪特別警報」を発令していますが、「特別警報」が出されたことにより、直ちに私たち事業者に具体的な行動義務が発生する訳ではありません。
ただし、一般的に結婚式事業者はサービスを提供するにあたっては、単に「契約通りの婚礼サービスや料理を提供する義務」の他に「新郎新婦や参列者の安全を配慮する義務」(安全配慮義務)を負っています。
施設の場所や状況によっても異なりますが、台風の接近により安全の確保が困難と思えるような場合には、たとえば開催時間を変更したり、演出を変更するなどの配慮をすべき義務が出てきます。
現実的には、契約主体である新郎新婦と協議しながらどのように安全を配慮するのかをご決定いただく必要があります。
Q2.「特別警報」が発表されたので施設の判断で結婚式を中止することは問題ないのでしょうか?
A2.新郎新婦の同意なく中止することは契約違反となるリスクがあります。
いくら台風の接近に伴い「特別警報」が出されたとしても、契約当事者である新郎新婦の同意なく結婚式を中止することは契約違反の責任を問われるリスクが生じます。
一旦契約をしている以上、事業者は「契約通りサービスを提供する義務」を負いますので、この点はご注意ください。
Q3.契約時に『非常時の特則』を取り交わしている場合であれば、施設の判断で結婚式の中止や延期をすることはできるのでしょうか?
A3.『非常時の特則』に定めた客観的な要件を満たした場合には、合法的に結婚式を中止または延期することができます。
以前よりBRGIHTが作成を推奨している(BIAも「モデル約款」に伴い紹介している)『非常時の特則』において規定された「巨大台風が接近した際に特則が適用される客観的な要件」を満たした場合には、施設側に結婚式を挙行するか否かを判断できる権限が発生します(注:事業者ごとの『非常時の特則』において条件や発生する権限の内容は異なりますので、よくご確認下さい。)。
これに基づいて施設が「結婚式を中止または延期」と判断するのは、契約上の合意という根拠があり、適法なものと言えます。
なお、契約時に『非常時の特則』等で特例措置についての合意をしていない場合には、こうした権利は自動的には発生せず、対応としてはQ2&A2の通りとなりますのでご注意ください。
Q4.結婚式の直前に巨大台風により「施設の損壊」が発生してしまい、物理的に結婚式の開催が出来なくなりました。この場合の法律関係はどうなりますか?
A4.原則として会場は受領済みの金銭を【返金】しなければなりません。
民法第536条には『危険負担』という制度が規定されていて、巨大台風などの「不可抗力」によって「サービスの提供ができなくなった時」には、新郎新婦はそのサービスの対価を「支払わなくてもよい(=請求を拒否できる)」とされています。
一般的な結婚式の場合には当日までに申込金や前払い金等はすでに支払われていますので、会場はこれらを新郎新婦に返金しなければなりませんし「新郎新婦による解約」でもないので解約料も請求できません。ただ一方で、会場の責任で開催が出来なくなった訳ではないため、新郎新婦側が費やした交通費や宿泊代、購入済みの引出物代等を賠償する義務は負いません。
つまり「会場としては新郎新婦から支払われた金銭は全額返金しなければならず、解約料等も請求できないけれども(会場はその点では大損ですが)、逆に新郎新婦側も結婚式中止によるその他損害の賠償を会場に求めることはできない(会場としては追加の支払いを請求されることはない)」という決着方法が定められている、ということです。
ただ、契約時に「非常時の特則」等で別の取扱いが定められていたり、会場と新郎新婦とで「ではこういう条件で延期することにしましょう」と合意できれば、(消費者契約法に照らして無効となるほど一方的に事業者有利の内容でなければ)そちらの内容が法律に優先して適用されます。「危険負担」という民法上の規定は「当事者間でこうした場合の取扱いについて何も合意がなかった場合の取扱い」を定めたものである点に注意が必要です。
Q5.巨大台風が接近していますが、週末に実際に直撃するかどうかはまだ分からないので会場としては予定通り開催するつもりですが、その方針自体は差支えありませんか?
A5.差支えありません。
契約が締結されている以上、原則としてそのまま開催という判断で差支えありませんし、逆に、新郎新婦の意向に反して会場側の独断で中止してしまうと契約違反の責任を問われかねません。
ただ、新郎新婦や参列者等の安全確保に向けたアナウンス(来場される際の交通機関の乱れ等についての注意喚起)等はしておかないと、後から事業者としての注意義務違反を問われる場合がありえますので注意が必要です。
Q6.Q5の事例において、施設としては施行に問題はないのですが新郎新婦が巨大台風接近に伴う不安感を理由に、前日になって「延期したい」と要望してきました。この場合でも日程変更料を請求することは問題ないでしょうか?
A6.法律上は問題ありません。
原因はなんであれ、結婚式サービスの提供が可能な中で、新郎新婦のご意向やご都合によって発生した「延期」であれば、原則として婚礼規約に沿って日程変更料を請求できます(なお「解約」の場合の解約料も同じ考えです)。
あとは事情を踏まえてお客様向けサービスとしてどう判断するか、という問題です。
Q7.巨大台風の影響による新幹線の運休や飛行機の欠航によって参列できなくなった参列者が一部出ていまいました。新郎新婦から「人数分の料理代を減額してほしい」と依頼を受けました。法的には減額をする義務があるのでしょうか?
A7.減額をしなければならない法的な義務はありません。
私たちブライダル事業者は、契約された日時に、契約された人数の参列者をお出迎えし、契約されたサービスを提供することについては契約上の義務を負っていますが、「参列者が実際に参列するかどうか」まではコントロールできませんし、契約上の責任も負っていませんので、お気の毒ではありますが、会場側がその分を負担しなければならない契約上または法的な義務は認められないと考えます。
なお、当然ながら「サービスとして」代金の一部減額などの配慮をすること自体は何ら問題ありません。
Q8.巨大台風の発生による交通網の乱れで帰宅できない参列者が現れたため、新郎新婦から「参列者のホテル代を会場が負担してほしい」と依頼を受けました。法的に対応する義務があるのでしょうか?
A8.対応しなければならない法的な義務はありません。
これもA7.の回答と同じで、会場側は「参列者がいつどのように帰宅するのか」までコントロールできませんし、契約上の責任も負っていませんので対応しなければならない義務はありません。
もちろん、こちらも会場が「サービスとして」特例措置を講じることは問題ありませんが、新郎新婦や参列者から強制される性質のものではありません。
Q9.施行前日に直撃した巨大台風により敷地内の樹木が倒れて景観の一部が変更したことを理由に、施行後の新郎新婦から「期待していた通りではないから一部返金して欲しい」と依頼を受けました。それ以外に施行上の問題はありませんでした。法的に対応する義務があるのでしょうか?
A9.基本的にありません。
巨大台風という不可抗力により景観が変更したことに会場側の過失はありませんし、結婚式サービス自体は契約通り提供出来ていれば損害も生じていません。
会場側の樹木の管理が著しく不足していた、景観の変化が結婚式の価値を著しく下げるものだった等の特殊事例がない限り、原則として、減額に応じなければならない法的な義務は発生しません。
いかがでしたでしょうか?
週末に向けて全国のブライダル事業者の皆様のお役に立てることを祈ってます!
(Q&A監修:BRIGHT増渕勇一郎弁護士)
・
Comments