top of page

Q. カスハラとまではいかなくとも、「入場のタイミングに対する認識の相違」「お料理の提供方法に対するご意見」 等々、明確な過失や運営上の重大なミスがあったわけではないけれど、感情的なご不満やご苦言を頂戴するケースがまれに発生します。このような場合、お客様へのご説明・対応としてどのような姿勢が望ましいか、また、金銭的なご対応においては、どの程度の返金額が妥当と考えられるか、ご意見を頂戴できますか。

更新日:10月29日

A.. 「ブライダル業としてお客様からのクレームにどう向き合うのか」という課題に対しては、属するお立場から様々なご意見が噴出するでしょうし、BRIGHTとしてはあくまで「ブライダル特化の法律サービス提供者」としての立場からの意見を述べることしかできない点、何卒ご了承ください。

私自身は、世の中に様々な価値観があるからこそ定められているのが「法律」だと理解しているので、クレームが生じた際に


「法律に照らすとどう考えるべきかな?」


と考えることは、非常にフェアで、お客様に対しても誠実な姿勢だと考えています。 (逆に「当会場は」「当ホテルは」と自分たちの基準だけに照らして対応するのは、ある面では自分たちの価値観をお客様に押し付けているようにも見えます。)


その上で「法律」的にクレーム対応を考えていきます。

まず、ご期待に沿えなかった場合にはサービス事業者としては「残念です」という意味で 「ご期待に沿えず申し訳ございません」と謝る姿勢には、私も全く違和感はありません。 問題はそれに「返金」や「お詫び金」などお金を伴う必要があるか、の判断です。


この点、民法415条は、(意訳すると)「賠償義務が発生するのは本来提供すべき水準のサービスが提供できなかった時に限られますよ」と定め、また同416条は「本来提供すべき水準のサービスが提供できなかったときは、基本的に不足した分だけ返金すればいいよ」と規定しています。


そして「不足があったのか」「あったとしてどの程度か」については、お客様が決めるものではなく、事業者が決めるものでもなく、最終的には裁判所しか決めることができない中で、

『こういう不足があって、こういう賠償が妥当だ』ということを証明する責任は、返金等を求める側、つまりお客様側が負っているというのが法律の大原則です。


つまり「お客様が返金を求めているから返金しなければならない」という単純な図式ではなく、「お客様が返金を求めている」という事実と「法的にどう対応すべきか」という検討とは直接の関係はないのです。


したがって、クレーム対応に際して「お客様はどう主張しているのか」という点については 充分ヒアリングした後、一旦それを頭から外して、


「では法的に自社のふるまいはどうだったのだろう?」

「提供したサービスに契約上の不足はあったのだろうか?」

「不足があったとしたらそれは金銭に代えられる程度のものなのだろうか?」


ということを、客観的に検討すべきだろうと考えます。

(ここでは「客観的に」という視点が必要で重要だろうと思います。なぜなら「お客様が猛烈に怒っているから」とか「泣いているから」とか主観的な要素で考えてしまうと、同じミスをしてしまった相手が2組いたとして、感情的になっているお客様には多額の返金をして、ぐっとこらえてくれた(理解してくれた)お客様には少額の返金または返金をしないという結論に至りかねず、それは極めてアンフェアだと思うからです。)


その客観的な検討に当たっては、もちろん当社のような「第三者」に意見を求めていただくのは有効なことだと思いますし、専門家としては過去に発生した同様の例をストックしていますが、貴社以外の事業者での事例も踏まえてアドバイスできると考えます。


そうした検討を経て貴社として、

1)確かに自社のふるまいに落ち度があるものであって、提供したサービスに不足がある事案

2)自社のふるまいに落ち度があるとは思えない事案 のいずれであるかを判断し、もし前者であれば

3)では不足分を金額に算定すると「どのサービスの何%を返金すべきか」

を検討することになります。

(この際に業界では安易に「サービス料全額返金」「司会代全額返金」という結論にいきがちですが法的には全額返金とは「やっていないのと同じ」という評価ですから、一部にミスがあったとしても本来は「2割」とか「3割」とか一部の返金に留まるべきです。)


そしてこの判断の際には「目の前のお客様が納得するかどうか」という要素は要れないことを私はいつも推奨しています。 なぜならば、納得するか否か他人の心の中はコントロールできませんし、悲しい話ではありますが、世の中にはどんなに誠実に謝罪しても「そもそも納得する気がない人」も少なからずおられます。


したがって事業者としては「第三者が客観的に聞いたときに『この会場はきちんと誠実で、合理的な解決策を提案している』と感じてもらえるかどうか」という視点を重要視すべきだと考えます。

(要するに「外から見ても自分たちの提案は評価してもらえるか」という視点ですね。)


こうした経緯の上で結論を出したのであれば、それ以降は一切ブレずに、お客様に対して

【返金を断る場合】

「今回の件を検討いたしましたが、ご指摘のような不手際は確認できませんでしたので、 返金等の対応は必要ないと判断いたしました。何卒ご了承ください」


または

【返金額を提示する場合】

「今回の件を受けて検討し、当社の不手際に対して改めて心からお詫びをするとともに、 精一杯の謝罪の気持ちとして金●円の返金をご提案いたします。なおこの金額は弊社内での検討を経た最終のご提案となります」

等と、結論を伝え、納得されず「金額が足りない」「誠意がない」と言われても「当社の見解は先般お伝えした通りです」と言い続けるしかないですし、それが解決へ向かうベストチョイスだと私は思っています。

(もし納得できないお客様は、日本のルールとしては自分で訴訟をするしかないのです。 そして上記の通り裁判所に対して自らの主張が正しいということを証明する必要があります。しかし貴社がまとめた結論が、当社のような第三者の意見も踏まえて、誠実に、合理的に出されたものであれば、裁判所でそれ以上の判断がされる可能性は極めて低いです。)


なお、この際に「SNSや口コミに悪く書かれたらどうしよう」とか「また電話が来て罵詈雑言を浴びせられたらどうしよう」という心配をする事業者もおられます。

そうしたことを懸念されるお気持ちはよく分かりますが、頭の中で区分する必要があります。


① 自分たちに非があるのか、いくら返金すべきなのか

② SNSや口コミに悪く書かれたらどうしよう、威圧的な電話が来たらどうしよう は全く別の議論です。


①は①で、あくまで客観的に判断すべきです。

そして、②についてはせっかく「カスハラ防止条例」も施行され、今国会でカスハラ対策が法律でも義務化される流れにありますので、もしSNSに悪く書くと言われれば「お客様がどのような表現活動をされるかは当社が関知するところではありませんが、当社の営業を妨害するような内容であれば、専門家と相談しつつ粛々と対応いたします」と冷静に返せばよいかと思います。


また、威圧的な電話であれば「お客様のそのような言動はカスハラ行為に該当すると判断せざるを得ません。もし改善していただけないのであれば、これ以上の対応は取りやめ、専門家と相談しつつ法的な対応に移行させていただきます」と警告を発するべきだと考えますし、あまりに行き過ぎた場合は本当に警察にも相談するべきだと思います。


今後カスハラを巡っては「スタッフを守ること」を何よりも重視する義務が企業には課せられていきますので、ちょうど今は考え方のシフトチェンジが求められています。

この点、まだまだ業界内で誤解が多いですが、②はどんなに誠実に対応しても起きうることなのです。


②を恐れるがあまり、①を放棄し、全く合理的でない過剰な返金をしていくことは本末転倒であるため、現場で実際にクレームに接する立場の人が一番大変ではありますが、責任者の方であればこそこの点は冷静に、客観的に対応する必要があると私は思います。


以上、法的な観点からのクレームとの向き合い方について私見をまとめてみました。少しでもお役に立つことができれば幸いです。



ree

 
 
 

コメント


bottom of page