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『債務不履行』(民法第415条)という考え方と『損害賠償の範囲』(民法第416条)について

1.テーマ

 『債務不履行』(民法第415条)という考え方と『損害賠償の範囲』(民法第416条)について取り上げます。ブライダル業界をはじめサービス業には宿命的に付きまとう、「クレーム対応」の際に知っておくととても役に立つので是非ご参考になさってください。


2.ブライダルで何が問題になるのか?

 民法では、契約に基づいて商品やサービスを提供しなければならない者(事業者)が「契約通りの商品やサービスを提供できないとき」(この状況を『債務不履行』といいます。)には、商品やサービスの提供を受ける側の者(お客様)は、それにより被った損害について「賠償請求ができる」と規定しています。一方で、もし『債務不履行』となった原因が「社会通念等に照らしてやむを得ないような場合」に限っては賠償責任を負わない、とも規定しています(民法第415条第1項/意訳)。

 ブライダルの現場においてこの条項が問題になるのは、提供したサービスに不満をもったお客様からクレームが寄せられた場合です。ブライダルの現場で発生する具体的な問題に照らしてもう少し詳しく掘り下げていきましょう。


① お客様からクレームがあれば全て法的な責任が生じるのか?

 注目すべき点として、民法は事業者に『債務不履行』が認められる場合を「契約通りの商品やサービスが提供できないとき」と限定しています(実際の条文では「債務の本旨に従った履行をしないとき」となっています)。

 つまり、本来事業者として提供すべきレベルの商品やサービスを提供していたにもかかわらず、お客様のご期待がもっとハイレベルなものであったことからご不満が生じ、クレームが発生したような事例(ブライダルの現場では非常によくあります。)においては、どんなに厳しいクレームであっても、法的には『債務不履行』は認められず、事業者は返金や減額をする義務を負わないという場面があり得るのです。


② 天候不良等によって演出内容が変更した場合も法的な責任を負うのか?

 民法は、仮に『債務不履行』が生じても、その原因が「やむを得ないもの」であれば法的な責任は負わないとしています。

 たとえば屋外での演出を予定していたところ、突然の雷雨で急遽屋内での演出に変更となった場合など、客観的には「契約通りの屋外でのサービスを提供できていない」としても、通常は天候の悪化はやむを得ない理由にあたりますので、事業者はそれを理由に返金や減額の義務を負わないという考え方が成り立ちます。


③ もし事業者側に『債務不履行』が認められたときはどこまで賠償するのか?

 これについては、民法第416条で「通常生ずべき損害」(第1項)または「予見できる範囲の損害」(第2項/意訳)を賠償すれば足りると制限されています。

 つまり、もし提供ができなかった商品やサービスがあったとしても、原則としてはその商品やサービスの代金分を返金または減額すれば充分、というのが民法の考え方と言えます。


私たちブライダル業界には特有の価値観として「お客様第一」という考え方が根付いており、何かお客様からクレームを受けた場合には真摯にそれを受け止め、解決を図っていこうとする傾向が他業界と比較して強く存在しているように思います。それは一種の美徳でもありつつ、一方で強く主張される方に対して過剰な返金や減額に応じることとなると、会社に必要以上の損害を与えたり、他のお客様とのバランスにおいて不公平感が生じてしまうこともあり得ます。

トラブルの解決へ向けたひとつの検討要素として『債務不履行』を巡る上記の視点を活用していただけると、特に現場で判断を求められる立場の方には有益だろうと考えます。




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